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■ 負荷を解放してはならない(その2)

その1で負荷をミダリに解放してはならないと書きましたが、あるものを測定するために、意識的に解放することがあります。出力インピーダンスの測定です。アンプに限らず、例えば信号発生器などにも応用できます。

 

いまこのような回路があったとします。点線内部がアンプと考えてください。このアンプは出力電圧がe、出力インピーダンスを Zとします。このアンプの出力端子にインピーダンス Zを接続するのですが、途中にスイッチSWを挿入して回路を ON−OFF できるようにしておきます。
そして、SWのON−OFFに拘わらず出力電圧Vを測定できるようにします。
以下、V
ONとはSWONの時の出力電圧、VOFFとはSWOFFの時の出力電圧です。

1.SWがOFFの時(つまり負荷の解放状態です)

  この場合、Zには電流が流れないため両端の電圧降下はありません。したがいまして

     VOFF = e   

  となります。

2.SWがONの時

  と Z が直列に接続されているため

Von = ZL/(ZO+ZL)×e

= ZL/(ZO+ZL)×Voff --- A

この A 式を展開しますと

Zon = (Voff - Von)/Von ×ZL --- B

となりまして、Rに既知の負荷(たとえば8Ωのスピーカー)を使えば、アンプの出力インピーダンスを測定することができます。

 

■ ダンピング・ファクター

アンプのダンピング・ファクター DF は負荷インピーダンス/出力インピーダンス で求められます。
B の式より

DF = ZL/Zo = Von/(Voff-Von)

となります。この方法はON−OFF法 として知られています。

では具体的にどうなるか。
上の回路でZに8Ωの負荷を接続した時(VON)、負荷の両端に1Vの電圧が発生し、負荷を外したら(VOFF)11Vになったとします。
この時、DF = 1/(11−1) = 0.1 です。 これより Z=80Ωになります。11Vの電源につながれた80Ωと8Ωの直列回路を計算すればやはり、VON = 1Vになりますね。
ダンピング・ファクター 0.1は、6AQ5をEp250V、負荷抵抗5KΩで動作させたとき時とほぼ同じです。
またダンピング・ファクターは、負荷抵抗/出力管の内部抵抗とほぼ等しくなります。なぜか。答えは(その1)を含めて、今までの文章と式の中にあります。


 

さて、DFはスピーカーの制動能力を意味します。むやみに大きい必要はありませんが、3〜10程度が良い、とされています。
ではDFが大きいと、どのような理由でスピーカーの制動が良くなるのでしょうか?
スピーカーに音声信号が入ってボイスコイルが振動すると、必ず逆起電力が発生します。この逆起電力がスピーカーの制動に影響を与える、と言われています。

 

再び同じような回路を書きます。今度の点線内はスピーカーです。Eは逆起電力、Zはスピーカーのインピーダンス、Zはアンプの出力(この場合は入力)インピーダンスです。逆起電力は音声信号がボイスコイル(以下VC)に加わると発生するものですが、音声信号に関係なく自分自身(VC)を振動させようとします。くどいですがダンピングファクター は、Z/Z です。

1.Z が無限大の時(つまりダンピングファクター=0)

(1) 音声信号がVCに加わる

(2) VCが振動する

(3) E が生じる

(4) E は自分自身(VC)を振動させる

(5) (2)へもどる

このように外部から音声信号が加わらなくとも、慣性の法則がなければ VCは振動を繰り返すことになります。

2.Z が0の時(つまりダンピングファクター=無限大)

(1) 音声信号がVCに加わる

(2) VCが振動する

(3) Eが生じようとする

(4) Eは自分自身(VC)を振動させようとする

(5) しかし負荷(つまりZ)がショート状態なので、Eの発生もVCの自己振動も起こらない

この状態が、スピーカーの制動がきいている、と言うことです。
このようにダンピンファクターが大きいと言うことは、発生した逆起電力を消費するための負荷が小さいことを、言い換えれば負荷へ流れる電流が大きいことを意味します。


では電流はZの大きさによって、どれほどの違いがあるのでしょうか?
無理にこじつければこのようになると思います。

本来このボイスコイルのインピーダンスは Z= R jωLなのですが面倒なのでRもLも考えずに単にZとします。(これがコジツケです。)
また、Eは交流ですので位相も考慮しなくてはなりませんが、時間の経過がほとんどないものとしていますので、直流に近いものと見なしています。さらに磁気回路も無視しています。(これもコジツケです。)

この時、この回路に流れる電流 は単純に

i = E/(ZL+Zo)

なるのでしょうか?確かに定常状態ではそうなりますが、スピーカーの制動は極めて短い時間内の現象です。RL回路のため、ここで過渡現象がおこり、時間がきわめて短ければ電流は次のようになります。

i = E/Zo×(1-exp(-(Zo/ZL)×t))

と言う具合に面倒な式になります。
expは自然対数の底(exp(1)=約 2.718)です。

この様子をグラフにすると次のようになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


時間(t)はグラフの右端でも1秒もないと考えてください。それくらい瞬間的な現象です。このグラフは Z/Z の違いでZに流れる電流がどのように変化するかを表しています。赤線より青線の方が、青線より黒線の方がZ/Zは大きくなります。
/Rの式はDFの逆です。ダンピングファクターが大きいほど、瞬間的には大きい電流が流れるのです。(ちょっと考えれば当然のことで、ダンピングファクターが大きいとは出力インピーダンスが小さいことですから)


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