「なんだこりゃ!?」
俺は目の前の状況につい素っ頓狂な声を上げた。
久しぶりに入った妹の部屋は、棚で埋まっていた。そして、その棚の全てには、見慣れぬものが収まっていた。
「ちょっとお兄ちゃん! 勝手に部屋に入らないでよ!」
部屋の中で机に向かっていた妹が、俺に抗議の声を上げる。
「あ、ああ、悪い。ちょっと本を借りようと思って。で、何だ、コレ?」
そう言って棚を眺める俺。
「何って、本だよ」
己の耳を疑った。
「なんだって? これが本?」
「そうだよっ。お兄ちゃんも、本を読むとかした方が良いよ?」
「本を『読む』だって? そんな物、メモリチップから入力すれば良いだけじゃないか」
まるで馬鹿を見るかのように、妹が俺を見遣る。
「昔の本ってのは、こういう風に紙に印刷してそれを纏めてたんだよ」
「昔って、いつの話だよ……いや、嫌々、そうじゃない。それよりも、これ、どこで手に入れたんだ?」
「どこって言うか、中身はメモリチップ買って来て、それを印刷して。あとは、本の作り方を調べて自分で作ったの」
「……ハッ。マメだねぇ」
いやはや、今のご時世に、わざわざ出力して、面倒臭いことに目で『読む』とは。我が妹とは言え、奇人というか変人というか。
「さすがに情報誌の類までは、製本しないけど。でも、小説だったら、やっぱりちゃんと読まないと!」
そう言って、勝ち誇ったように胸を反る。
そんなモンですか。
「それにしても、よくもまぁこんなに作ったな」
「自分で言うのもなんだけど、今の時代に趣味が読書って言うのも難儀だよねぇ」
「そもそも、『読書』って死語だろ?」