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6CA7プッシュプルアンプ
(全段差動タイプ)


去年から検討していた6CA7プッシュプルアンプが完成しました。ここにも書いたように、私は出力や効率面でのデメリットはあるもののA級動作が好きなので今回もA級。回路は次のとおりです。

 

この回路はネットでよく見かける『全段差動プッシュプルです。
この方式はA級以外の動作は不可能で、電力段にこの回路を使うと普通のプッシュプルのようにバイアス点と入力電圧の関係からある出力まではA級動作、それ以上はAB1級動作というような曖昧さはありません。ですから私はこの回路を別名『強制A級プッシュプル回路』と呼んでいます。ま、どうでもいいことですが。

全段にわたって差動増幅回路ですから、入力のRCA端子周りを除いてアースには音声信号は流れません。したがって電源部の役目はリップルを充分とって必要な電圧と電流を供給することで、インピーダンスの高低、平滑用の電解コンデンサの音響上の優劣等、他の要素は音質とは無関係になります。今回使った電解コンデンサは秋葉原のある店で山積み(ってほど大量じゃなかったけれど)されていたものです。高耐圧の電解コンデンサは高価なので、こういう回路はありがたいです。

使った部品はトランスはISOのFE25-8とMX-280、真空管は12AU7と6CG7は東芝、6CA7はスベトラーナです。この6CA7はハカマの部分が茶色でちょっと安っぽいですね〜。黒がいいのですが。他の部品は千石や秋月で買った一般品です。

■基本的な動作

電源トランスの280Vを整流すると約335Vが得られますので、平滑回路と出力トランスを経由して約320Vがプレートにかかる。今までの経験からISO(TANGO)のトランスは電圧が高めに出るので340〜350V位になるはず、という前提で設計しました。
そこでEpを320V、Ipを50mA程度(1本あたり・・青線)、負荷抵抗を4k(赤線)にすると、Egは-25V位になりそうです。


電圧増幅は当初12AX7による一段を考えました。
12AX7のゲインは50〜60倍。差動増幅にするとゲインは半分になりますが、とりあえずドライブは可能です。シンプルでいいのですが、その反面12AX7は出力インピーダンスが高いので高域特性が不利になります。

高域特性を良くするには内部抵抗の低い球を使う必要がありますが、そのような球はµも低いので一段ではドライブしきれません。どうしても二段以上の電圧増幅が必要となり、回路は複雑化します。

シンプルな一段にしようか、高域特性を重視して二段にしようか迷いましたが、結局は12AU7と6CG7を使うことにしました。普通なら6FQ7でしょうが、6CG7にしたのは特別な意味はありません。手持ちの真空管には6FQ7は1本しかなく、6CG7は6本あったからです。

12AU7と6CG7の µ をそれぞれ17、20。rp をどちらも10kとすると

12AU7のゲイン = 17×43k / (43k+10k) = 13.8
6CG7のゲイン = 20×33k / (33k+10k) = 15.3 (負荷抵抗33kは6CA7の入力抵抗200kとの交流負荷抵抗値)

各段のゲインはそれぞれ半分になりますから合わせれば 13.8/2 × 15.3/2 = 52.8倍。6CA7のバイアスを-25Vとすると必要な入力電圧は 25 / 1.4 = 18V。したがって 18 / 53 = 0.33V の入力で6CA7をドライブできる計算になります。

 

■直結対策

さて三段増幅ですからセオリーどおり12AU7と6CG7の間を直結にしますが、これによって別の問題が発生しています。6CG7も差動増幅だからで、12AU7や負荷抵抗のバラツキで発生する上下プレート電圧の誤差による6CG7への影響をいかに少なくするか、ということがポイントになります。

各真空管や負荷抵抗にバラツキが一切ないのなら考えなくてもいいのですが、そんなことはありえません。このためちょっとした工夫が必要です。といっても雑誌に掲載された回路を拝借しただけですが(笑)

初段と二段目を差動増幅にした時の回路は上の三つが考えられます(必要な部分だけ略して書いています)
(1)はV1のプレート電圧が上下で揃う保証はどこにもありませんから、上下の電圧差はそのままV2で増幅されてしまいます。差動増幅ですからしかたありません。また経年変化等によるV1のプレート電圧の変化にも対応できません。

(2)はV1のカソード間にボリュームを入れてV1のグリッドのバイアスを変え、プレート電圧を調節できるようにしたものです。オーディオ専科のアンプにはこの方式が多いです。シンプルですがこれもV1の経年変化には対応できず、V1を交換した際にも再調整が必要です。

(3)はここでも紹介されていますし、私の手持ちの雑誌では、1969年12月号のラジオ技術誌で上杉桂郎氏が6GB8PPアンプに採用してますから、おそらくかなり以前から知られている回路だと思われます(上杉氏のアンプでは、定電流ダイオードではなく抵抗が使われてます)。

V2の二つのカソードは別々に定電流ダイオードでアースに落とされるため、直流的に上下は別々の球として動作します。一方、上下のカソードはコンデンサでつながっているので交流的には差動増幅になるわけです。
二つの定電流ダイオードの電流値と負荷抵抗値がきちんとそろっていればプレート電圧も強制的にバランスされるようになります。事実完成後測定したらV2のプレート電圧差は2V以内に収まっています。直流領域と交流領域では違う動作をするので少々不気味(笑)ではありますが、V1の経年変化や球の交換にも自動的に対応するため、これを使うことにしました。

音声信号の経路に電解コンデンサを使うのは少々残念ですが、私の他のアンプ・・イコライザやプリアンプの信号経路には多くの電解コンデンサを使っているわけですから、こんなことに拘ることもない・・・と自分に言い聞かせます(笑)

12AU7への供給電源は、ツェナーダイオードとトランジスタで簡単な定電圧電源にしています(162V)。トランジスタのコレクタとアース間の100kは、12AU7の動作がはじまるまでの間、わずかでも電流を流したかったからです。何かの本に負荷電流が完全にゼロの場合、動作が不安定になるようなことが書いてあったので。ただしどういう具合に不安定なのかはわかりません。(実験するつもりもありません)

ここを定電圧にした理由は三つあります。
まず12AU7のプレート電圧のドリフトをある程度防ぎ、6CG7への影響を少なくしたかったこと。

次にここが定電圧でないと、もし12AU7が左右同時に不良になった場合、6CG7のグリッドには供給電圧(約300V)がモロにかかってしまい、カソード電圧はその電圧とバイアス電圧が加算されただけ上昇することになります。カソードに定電流回路がつながっているからです。

6CG7の電解コンデンサの耐圧は250Vですので、これではとてももちません。このため12AU7が不良になっても、6CG7のグリッド電圧を強制的に162Vに抑えて電解コンデンサを保護したかったからです。まあ真空管が左右同時に不良になるなんて、ありえませんが。

最後の理由は12AU7と6CG7が直結で、しかもB+はシリコンダイオードで整流しているため、スイッチを入れるのと同時に6CG7のグリッドにかかる高圧を少しでも遅らせ、また電圧を低くするためでもあります。直結でなければこんなこと考えなくてもいいんですがね。

ここは最初MOSFETの2SK2545(600V40W)を使ったところ、約90Vしか出力が出ません。少々あせりながら2SC3425(500V10W)に交換したら162Vになりました。なぜMOSFETだと出力が出ないのか????

 

■その他

これ以外はとりたてて言うほどのものはありません。入力段の100kVRと780kの並列はいつもの私のやり方です。ボリュームのブラシが接触不良を起こして12AU7のグリッドがアースから浮くのを防ぐためです。また6CG7用の定電流ダイオードはあらかじめ20個ほど用意して電流値の合うもの・・・というか近いものを選んで使いました。

マイナス電源は6.3Vと5Vを直列したものを整流し、6CA7のDCバランスと初段の定電流ダイオード用に使っています。6CA7のグリッドの対アース間電圧は-9V程度ですが、これは定電流回路にかかる電圧を少なくして無用の電力消費(つまり発熱)を抑えるためでもあります。

電力段の定電流回路は2SC4793を使ってディスクリートで組んであります。別にLM317でもかまわないのですが、なんとなくこうしました。
2SC4793
コレクタ・エミッタ間電圧(VCEO) 230V
コレクタ電流(IC) 1A
コレクタ損失(PC) 2.0W(Ta=25℃)
20W(Tc=25℃)
電流増幅率(hfe) 100〜320

このアンプのB電流は全部で230mA位になるので20%程度の余裕をみれば電源トランスは290mAはほしいところですがMX280はシリコン整流では260mAまでです。若干余裕は少なくなりますが、これくらいならまあまあでしょう。整流は1000V1.5Aのファストリカバリーダイオードを使いました。1000Vでは耐圧が少々心配なので2個直列にしています。

 

■製作

6BQ5方式のシャーシーはやめました。
このアンプは真空管だけでも6CA7一本でヒーター電力9.5W、プレート損失16W、合計25.5W。4本で100W以上が消費します。それと電圧増幅段の電力も加算されますから相当な発熱が予想されます。6BQ5方式はデザインは好きなのですが、木が多くて放熱的には不利になるので今回は普通の弁当箱式のアルミシャーシー(350×250×60)にしました。
ただこのままですとアルミ板の肉厚が薄い(1.2mm)ので、補強のためL型のアルミ板を出力トランスと電源トランスのネジを使って一緒に取り付けています。

それにしてもシャーシー加工ってホントに面倒です。
放熱穴はまっすぐに揃わないし(笑)

小さなシャーシーですが、写真のとおり内部は結構余裕があって配線自体はラクでした。ちょっと心配なのが定電圧用のトランジスタの放熱です。約1.4W位の電力損失なので小さな放熱器をつけていますが、シャーシー内蔵です。夏はどうなるでしょう。

それにしてもトランジスタ3個、ツェナー・ダイオードと定電流ダイオードが合わせて20個、一般ダイオードは7個になりました。こんなに多くの半導体を使った真空管アンプははじめてです。

前から 後ろ姿

禁断のウラガワ

■簡単な測定値

今回一番気になっていたのが6CG7のプレート電圧の差異ですが、左右供に2V以内の誤差でした。これは定電流ダイオードと6CG7の負荷抵抗とカソード抵抗によるものでしょう。12AU7のプレート電圧の差は3〜5Vあるのでちゃんと補正されています。これくらいの電圧の違いならほとんど問題にはならないと思います。

  プレート電圧供給(V) プレート電圧(V) プレート電流(mA) バイアス電圧(V)
12AU7(片側) 162 78 2 2.8
6CG7(片側) 298 136 2 -6
6CA7(1本) 338 314 49 -25

裸利得 34倍(50Hz)、NFB 4.7dB
出力は片側8〜9Wだと思います。


■結果

音質は非常に気に入ってます。
一聴して300Bアンプと比べ低域も高域もさらに広がり、透明感が増したのがわかります。
しかし、それ以上のことは・・・私がどんな音質を好むのか、どんな音質を求めているのか・・・とてもじゃありませんが、そんなことをスラスラ書けるほど私は文筆家ではありませんので、あえて書かないことにします。ただ私が求める音質のイメージに近づいたことは確かです。

私のオーディオシステムで差動動作をしているのは本機だけですが、本来伝送回路で正しい平衡動作を得るには、信号のHot側とCold側で別々の専用アンプを必要とします。本機のような方式は、いわばば略式平衡動作(?)となります。しかし略式だろうと、なんだろうと、音が良ければいいワケですから、あまり深く考えないことにしてます(^。^)


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