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6BQ5プッシュプルアンプ(全段差動タイプ)


去年(2006年)の暮、高崎市内のあるジャズ・スナックで飲んだ時のこと。
最近とても小型のアンプを作ったといったら、マスターのKさんが是非見てみたいというので数週間後、キューブくんをお店に持参してミニ試聴会を開きました。その時の会話です。

Kさん: なかなかいいじゃない。これ、譲ってよ。
実は我家のアンプが壊れてしまって、CDが聴けないんだ。
私: 譲るのはカンベンして。小さい箱の中に無理して部品を押し込んだから結構熱が出るし、長時間聴いてると何だか心配だもの。その代わり、一台作りましょうか?
Kさん: うん、じゃ、お願いね。ところでこのキューブくん。中・高域は良いけど、低域がちょっと弱いなあ。そこのところもヨロシク。
私: (これはキビシイ要求と思いながらも)・・・・・・了解。

 


 

ということで、アンプを作ることになりました。低域の弱さをカバーするため回路はプッシュプル。真空管は、6BQ5を6本持っているのでこの三結に決めました。出力は3W前後になりますし、これなら電源の規模も小さくてすみます。

ところでアホらしいことですが、私はプッシュプル回路、特にAB級とかB級の動作に、ある種の「薄気味悪さ」を感じています。

人の顔写真を撮る時、AB級は顔の下半分が歪んだ写真と上半分が歪んだ2枚の写真を合成するようなものですし、B級にいたっては、顔の上半分と下半分が欠けている写真の合成でしょう。

こんなんでまともな音がするんかいな?と思ってしまいます。もっとも真空管では厳密なB級プッシュプルは不可能なんですが。

↑なかなかいいタトエでしょ(笑)

 

したがってプッシュプルとはいえ、動作はA級にします。回路は基本的に以前作った6AH4アンプと同じで初段を12AX7の差動増幅回路とし、位相反転と増幅を同時に行います。

電力段の動作はEp280V、Ip57mA(2本で)、RL8KΩ。
カソードはLM317を使った定電流回路を通してアースに落ちています。ここに差動回路を使ったのは、バイアスが自動的に定まるし、Ipを簡単に変更できるからです。

回路は真空管とその動作が決まればほぼ自動的に決まってしまいますが、問題はトランスです。今回は見た目とコストの兼ね合いから電源、出力、共に春日無線変圧器のものを使いました。

シャーシーは普通のアルミシャーシーでもいいのですが、一工夫したい。近所のホームセンターで使えそうなものを物色していたら・・本箱の棚板がありました。しかも495円とお買い得♪
サイズも295×295×18(mm)で手ごろな大きさです。
これをくり抜いて、アルミ板を乗せて下は木枠を取り付けて・・・あれこれ想像がはじまります。この『想像』が楽しいのです♪♪

加工第一段階終了
これから塗装したり取りつけたり
でき上がりました 青色LEDで足元を
ライトアップ
後ろ姿

配線は特に難しいところもなく、2日で終わりましたが・・・・・小さなトラブルが起こりました。

●発振その1
完成後スピーカーをつなぎスイッチONしたら・・ギャィ〜ン・・と盛大に発振。
負帰還が正帰還になっているに違いない、と12AX7(下側)の100Ωをワニ口クリップでアースに落としたら発振停止。出力トランスの一次側を入れ替えます。この程度なら理由はわかるし、簡単に解決できます。

それにしても、トランスの配線交換は一次側でも二次側でもどちらでもいいと思うし、そう書いてある本もあるんですが、なぜ一次側なのか?

●発振その2
テスト用の小型スピーカーではわかりませんでしたが、JBLにつないだらウィ〜ンという音がかすかに聞こえてきます。ボリュームを回すと周波数も変わります。アンプではなくて発信器状態です(笑)
こんな現象は生まれてはじめての経験で、ちょっと悩みました。

あせってもはじまりません。
コーヒー飲みながら思いましたね。この発振音は以前聞いた音に似ている・・・。
高校生の時、五球スーパーを作ったら中間周波増幅段のゲインが高すぎたためこの段で発振した時の音です。この時は6BA6のgmを下げるため、カソードに規定の倍位の抵抗をつないで解決しました。

ものは試し、と6BQ5のカソードとLM317の間に84Ωの抵抗を入れたら治まりました。ヤレヤレ・・(~_~;)
しかしこれで本当に発振が止まったのかどうかは不明です。可聴周波数よりはるか高い所で発振しているかもしれないし。

●DCバランス
はじめはDCバランスは考えていませんでした。理由もなく、たいしたことないだろう、とタカをくくっていたんですが、一応測ってみたら片側0.7V、他方0.3Vもあるではないか!
この時点ではすでにけっこうな音質で鳴っていたのですが、知らなければともかく知った以上は気になってしかたありません。

急遽初段用のマイナス電源(-5.8V)と手持ちの10Kのボリュームを使ってバランス回路を追加しました。この結果片方は12mVに収まりましたが、他方はどうしても0.2V以下になりません。ま、仕方ないか。

●リップル
出力トランスにつながるところのB+のリップルが0.54V。あれあれ?なんか計算違いしてしまったかな。これまた急遽100Ωと47μのリップルフィルターを追加。リップルは0.14Vに減少。でもこのやっつけ仕事で中身はめちゃくちゃになってしまいました(泣)

見られたくない裏側です(笑)。
左の写真の下側にあるボリュームと電源トランスの右下に横になっているセメント抵抗が後から追加したものです。

6.3Vのヒータートランスを使ったテキトーな測定ですが、ゲインは20dB。逆算すると裸利得は25.7dB。負帰還量は5.7dB。ダンピングファクターは6.9でした。左右供よく揃っています。


音質はなかなかのものです。
こんな小さな(72x51x57mm)出力トランスですが、低域の伸びはシングルのそれではありません。私の愛機300Bアンプも敵いません。しかし中域はよく言えば素直。悪く言えば素っ気ない音で、300Bアンプのような一種の『色気』に欠けるのです。

その色気は300Bアンプの脚色だと言われても反論できないのですが、この素っ気なさは6AH4アンプにも感じることです。これがプッシュプルと言うものなのでしょうか?
しかし、とは言ってもこれはこれで充分満足できる内容であることには変わりません。

 

2007年3月31日。
これをKさんのスナックに納品しました。
納品とは、つまり居合わせたお客さんを交えての試聴会です。
正直言いまして大好評で、お客さんからは出力は?、コストは?回路は?と私は質問攻めにあいました。

ある若いお客からは、これがこんなコストでできるなんて、オレがステレオに注ぎ込んだあの金は一体何なんだ?と言ってました(^。^)


●参考:情熱の真空管(木村哲氏)


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