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リメイク版300Bアンプ(設計編)

Before After

1997年11月に作った300Bアンプをモデルチェンジしました。回路はかなりの部分変更してありますが無意味に変更したわけではありません。旧モデルの問題点をあげて、それを解決するよう図りました。

ただし私にはロクな測定器がないし、肝腎の耳もテキトーですので問題点は本当に問題なのか、あるいは本当に問題が解決したのかは不明です(~_~;)

  旧モデル 問題点 新モデル
電圧増幅段 12AU7(パラレル)
12BH7(パラレル)
@ 高入力容量のため高域悪化
A 電力増幅部を含めて直結部がない
(NFB時の安定度に問題あり)
B 12BH7では歪みが多すぎる?
@ パラレルをやめる
A 回路インピーダンスの低下を図る
B 直結回路にして安定したNFBをかけられるようにする
電力増幅段 自己バイアス 片CHで4.2Wの電力消費でかなり発熱する 半固定バイアスとする
電源   300Bヒーターへの突入電流に対応していない。(これについては対応する必要があるのかどうかわかりませんが、一応対応しておきます。) タイマー・リレー、MOSFET等を使ってゆっくり立ち上げる

 

■部品の再利用

旧モデルを解体して主要部品は再利用します(セコイ!)

電源トランス   タンゴ MS-200CT-A
出力トランス  タンゴ XE-60-3.5S
チョーク  タンゴ MC-3-350

XE-60-3.5Sは300B用として標準的な出力トランスかと思いますが無理してこんなに大型で重いトランスにする必要もなく、XE-20でも良かったかもしれません。
MS-200CT-Aはヒーター点火用として0〜4〜5V3Aが2組、0〜5V3Aが1組、0〜6.3〜10V3Aが1組しかありません。用途は300B、PX-25シングル用となっていますが、発売当時はヒーターの直流点火はあまり一般的ではなかったのでしょう。中途半端な組合せですがこれを使わざるをえません。
チョークだけは今回は使わず、MOSFETによるリップル・フィルターとしました。


■電力増幅段

普通でしたらプレート電圧や電流から設計に入りますが、今回はバイアス方法からはじめました。
バイアスの方法は固定、自己、それと両者の折衷である半固定の三とおりがありますが、今回は半固定で自己バイアス部は定電流回路を使いました。理由はつぎのとおりです。

1. 固定バイアスではグリッド抵抗が小さく、前段の負担が大きい
2. 定電流回路ならプレート電流の安定度は自己バイアス以上で、グリッド抵抗は自由に決められる(前段の負担軽減)
3. 定電流回路ならバイアス電圧は自動的に設定される(C-が変動してもバイアスは一定に保たれる)

半固定にしたのは自己バイアス方式にしても、定電流方式にしても、それだけではこの部分の消費電力が大きくなるため、少しでもそれを回避したいと考えたからです。
下記のとおりバイアス電圧は-60V、プレート電流は70mAですから通常ですと4.2Wの電力を消費します。定電流回路が安定動作するための電圧を15Vとすればグリッドには-45Vを与えれば良く、この時の定電流回路の消費電力は1.05Wと、1/4になります。もちろんこれはシャーシー内の温度上昇を少しでも防ぐためです。今回のシャーシーは木枠に天板のアルミ板を取り付けたため、放熱はかなり悪くなりそうですのでこのようにしました。

動作点は下の表の赤丸のところです。WE300Bには1本づつ特性表がついていますので比較的正確に動作点が選べます。プレート電流は70mA(緑)、ロードライン(青)は3.5Kです。

Epが300V程度でIpが70mAになるポイントをさがすとEpは310V、Egは-60V位です(赤丸)。バイアスを-45Vとすると定電流回路にかかる電圧を15V。プレート電圧は325V。出力トランスやデカップリング抵抗でのロスを加算すると供給電圧は340V位が必要になりそうです。グリッド抵抗は330K。前段の負荷抵抗は20Kで、合成しても19Kありますから前段の出力にほとんど影響を与えません。なお結合コンデンサーは0.47μです。

■回路

全体の回路です。電圧増幅段は5687。中間を直結とした単純な二段増幅です。

5687は本来コンピュータのスイッチング用として開発された球で、最近ではオーディオ用としても注目されています。
μ=18、gm=11500m、rp=1.56K、プレート損失=3.75W。
内部抵抗が大変低いですが、これはプレート電流を10mA以上も流した時の話で、それ以下の領域では3K前後です。しかしそれでもこの低さは魅力的で、大きなプレート損失と共に強力なドライブが期待できそうです。ただし強力なヒーター電力(6.3V、0.9A)とあわせて1本で約7Wもの電力を消費しますので相当の発熱が予想されます。

この球以外では12AU7、6FQ7、6DJ8を候補にあげましたがゲイン、出力インピーダンス等を考慮して5687に決めました。150Vp-p位の出力がほしいので12AU7、6FQ7では少々どころか、かなりきびしいところです。それと5687は手持ちで4本持っていたのも理由の一つです。

前記のように電力段は定電流回路を用いた半固定バイアスですが、実際には普通の抵抗(220Ω)と切り替えられるようになっています。定電流方式との音質の違いを確認するためと万が一、定電流回路が破損(ダイオードやトランジスタ)した場合の緊急処置用です。トランジスタは6AH4アンプでも使った2SC4793。シャーシー内の温度上昇を補正するため、ダイオード(600V1A)をつないでいます。

ハムバランサーのところは、実際には左のように固定抵抗2個をボリュームの中点につないでいます。ボリュームのブラシが接触不良になった場合のトラブルを回避するためです。でもこれによってヒーターへの供給電圧が弱冠下がりました。ま、当然ですが。

しかしながら今回のヒーター整流は我ながらなかなかよくできていてハム音はほとんど聞こえず、ハムバランサーを回しても変化が私の耳ではわかりません。ですからハムバランサーは不要でした。

電源として必要な電圧はB+で340V160mA、-50±5V程度のC−、300Bのヒーターとして直流5V1.38A(ハムバランサーに流れる電流を含む)が二つです(私の300B規格表には5V1.2Aではなく、1.28Aと書いてあります)。

B+の整流は旧モデル同様に5AR4を使いました。傍熱による遅延効果がありますので電圧増幅段の直結部に適しています。それにこの電源トランスはシリコン整流の場合電流が180mAになってしまい、これでは電流マージンが12%しかとれないのです。

シャーシーは自作ですので少しでも重量を軽くしようと思い、チョークの代わりにMOSFETでリップルフィルターを組みました。東芝の2SK2545。耐圧600V、40Wです。このFETは200円です。CRとダイオード、放熱器を含めても1000円程度ですのコスト・パーフォーマンスは大きいです。ソース〜ドレイン間、ソース〜ゲート間につないだダイオードは電源スイッチを切ったときの電界コンデンサーの放電電流の通路ですが、なくてもOKでしょう。

300Bのヒーター電源はショットキー・バリア・ダイオード(B6A03)による整流後、10000μのコンデンサー2個を使った平滑回路から遅延回路につなげています。この遅延回路はWEB上で見つけたもので、ゲートにつながれた半固定抵抗と固定抵抗、コンデンサからなる時定数で遅延します。立上りは10秒位ですが、B+の立上りより早くなくては意味がありません。

出来あがって3週間ほど経ってから、電源部に抵抗を挿入しました。電源回路の*です。この抵抗と電解コンデンサーCで時定数を構成しますからB+の立ち上り時間を調節できます。それまでの約15秒から約1分に遅らせました。これで完全にB+の立上りがヒーターより遅くなりました。これにどれだけ意味があるのか不明ですが。

FETは日立の2SK2936。これも1個200円です。ゲートにつながれた抵抗は0.2Ωですが、電流が増えた場合ゲート電圧を下げる役目があります。

ここの回路は出力電圧が5Vに近くなるよう、カット・アンド・トライでいろいろ試さなくてはなりません。整流直後の抵抗と、その次の抵抗です。結果として4.75Vになりました。-5%ですからまあまあというところでしょうか。ちなみに4.75VというのはWE300Bの時の値で、中国製300Bでは片側4.9V、もう一つが5.01Vになりました。

C-は120V端子から単純な半波整流で、約-44〜52Vを調整できるようにしました。これもボリュームの中点が浮いてしまった時のための予防策を施しておきます。半波整流なのでハム音が心配でしたが杞憂終わりました。


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