ゲルマ・ラヂオの原理
■ 電波
私達の身の回りには、もちろん目には見えませんが実にさまざまな種類の電波が存在します。
テレビ放送やラジオ放送をはじめとする無線通信、携帯電話。それにあなたの目の前のパソコンからも電波が放射されています。電波は光と同じ秒速30万kmもの速度で、電磁界を伴って進行する電気的な波を言います。その周波数(1秒間の振動数)は約10万Hz以上で、高いものは光の領域にもなります。
これに対して私達の声や、音楽など耳で聞える波は「音波」と言われます。人間が聴くことができる音波の周波数は、どんなに耳の良い人でも数10Hzから15000Hz程度です。また音波の速度は、温度にもよりますが、秒速で約340mです。いかに電波が速く、周波数が高いか、おわかりでしょうか?
無線通信に使う電波の周波数(1秒あたりの振動数)は、厳密ではありませんが、約100KHz(キロヘルツ)から数GHzまで実に幅広く存在し、次のように分類されます。
長波:10KHz 〜 100KHz
中波:100KHz 〜 1500KHz
短波:1500KHz 〜 30MHz
超短波:30MHz 〜 300MHz
極超短波:300MHz 〜
(注意) この分類は、本によって多少異なるかもしれません。
Hz(ヘルツ)と言いますのは周波数に使う単位です。100Kzとは1秒間に100,000回の振動を意味します。ちなみに関東地方におけるラジオ放送の周波数は次のとおりです。
● AM放送
NHK第一 594KHz
NHK第ニ 693KHz
TBS放送 954KHz
文化放送 1134KHz
ニッポン放送 1242KHz● FM放送
NHK・FM 82.5MHz
TOKYO・FM 80.0MHz
FMヨコハマ 84.7MHz<参考>
周波数は、1000Hzごとに次のように表されます。
1KHz = 1000Hz
1MHz(メガヘルツ)= 1000KHz
1000MHz = 1GHz(ギガヘルツ)
■ 放送電波
放送は、電波を作る発振器と音声信号を合成するものからなります。
しかし電波だけでは放送になりません。
電波に「音声」を乗せなくてはならないのです。この電波に音声をのせることを「変調」と言います。アナログの変調方法には大きく分けて次の二種類があります。
振幅変調 (Amplified Modulation 略してAM)
周波数変調 (Frequency Modulatioin 略して FM)
簡単に言えば、ラジオの電波とは、電波と言うトラックに音声と言う荷物が乗っているものを言います。ラジオ受信機とは、このトラック(電波)から荷物(音声)をおろして耳で聞く道具を言うのです。
では、電波に音声だけではなく、画像信号(たとえば動画)も乗せればどうでしょうか?
そう、それがテレビ放送なのです。(注意)
1.ゲルマ・ラヂオはAM放送専門であって、FM放送を聴くことはできません。2.デジタル信号を変調することもあり、代表的なのはPCM(パルス・コード・モジュレイション)です。
■ ラジオの原理
●これは冒頭に掲げたゲルマ・ラヂオの回路図です。
● 上の回路は次のような部分からできています
● 各部の説明
1.アンテナ
アンテナはラジオ受信機の入口です。
電波がアンテナに当たると、微弱と言うのもはばかるほどの微少な電気が発生します。この微弱電気がゲルマ・ラヂオの動作電気のすべてなのです。2.同調回路
アンテナで発生した微弱電気には、テレビ、ラジオをはじめとするさまざまな種類の電波が混ざり合っています。ラジオ放送だけでも、NHKもあれば、ラジオ??と言うローカル局もあります。
その中から目的とする周波数の電波だけを選択するのが同調回路なのです。
ここで選択された電気信号はあくまで電波ですから、そのままでは音になりません。そしてこれは、次の検波回路へ行きます。3.検波回路
同調回路で電波は選択されました。しかし、この状態では依然として音声として聞くことはできません。
私は前項でこう書きました。簡単に言えば、ラジオの電波とは、電波と言うトラックに音声と言う荷物が乗っているものを言います。ラジオ受信機とは、このトラック(電波)から荷物(音声)をおろす道具を言うのです。
トラックから荷物をおろすもの。それが検波回路なのです。ここではゲルマニウム・ダイオードと言う部品を使っています。音声が乗った電波がここを通ると音声が出てくるのです。(実際には電波も含まれていますが、問題ありません。このことは後で述べます)
4.出力回路
検波回路にしても、出力回路にしても「回路」などと大げさなものではありません。検波回路を通って来た音声は、ここではじめて音声として認識できるのです。
■ もう少し詳しい説明
最初にゲルマ・ラヂオの各部における波形を書きます。
長波、中波、短波等の分類はすでに書きました。
長波は地表すれすれに飛ぶため、障害物に遮断されてしまいます。このため主に船舶通信に使われますが、長距離通信には適しません。
しかし、中波、短波は遠距離通信が可能です。それは上空約60km以上には電離層と言う、気体の電子がイオン化して自由電子として空間を飛びまわる層があるからです。下の図の様に、中波、短波は電離層に当たると反射し、地上に戻ります。その電波は地上でも反射し、再び電離層で反射する、という具合に反射を繰り返し、結果として遠くまで届くようになるのです。特に短波は中波より高空にあるF層で反射するため、地球の裏側へも到達することがあります。
この様子は光が鏡に反射するのに似ています。
(長波はD層で反射することもありますが、D層は昼間だけ発生する電離層です)この電離層は、太陽からのX線や紫外線の影響で変化します。また昼間と夜間でも変化します。FM放送はこの影響をほとんど受けませんが、中波はかなりの影響を受けます。中波の放送が昼間と夜間では、夜間の方がいろいろな放送を受信できるのはこのためです。
● 変調
音声信号も電波も時間に対して電圧が変化する、いわゆる交流で、その形はオシロスコープ等の測定器で観察することができます。
ここではAM変調についてその形(波形)がどうなるのかを書きます。
発振器とは、電波を作り出す電気回路です。各ブロックにおける波形は下の図のとおりです。マイクと書いたのは便宜上であって、人の声もあれば、音楽もあります。
音声などの交流は、このように時間に対して電圧が変化します。1秒間における変化の数が、周波数です。周波数をf、1秒間で進む距離をνとすると ν=f × λ の式が成立します。ここでλのことを波長と言います。 波長とは、この図で最初の電圧が0の点から二番目に0になる点までの長さを言います。ちなみに300MHzの電波の波長は1mです。 |
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これは発振器で作られた電波と考えてください。 電波は、音声が低周波と呼ばれるように、高周波と言います。 ν=f × λ の式は、低周波と同じです。 |
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上の低周波と高周波を合成(変調)すると、この様な形になります。 中波放送(AM)とは、このような波形なのです。 |
さて、放送電波はアンテナから放射されます。
放射された電波は、距離の2乗に反比例して弱くなります。つまり送信アンテナから1km離れたところと、2km離れたところでは、2kmのところでは1kmのところに比べて電波の強さは1/4になるということです。この強さのことを電界強度と言います。● アンテナ
1mの長さのアンテナに電波が当たって、1V(ボルト)の電圧が発生すると、電界強度は 1V/m と言います。
こんなことは現実にはおこりません。なぜなら1mで1V もの電圧が発生したら大変なことになります。高さ100mの鉄塔には100Vの電圧が発生することになりますね。実際にアンテナに発生する電圧は μV(マイクロボルト・・100万分の1V)の単位です。ここで使うアンテナは「電灯線アンテナ」と言います。字のとおり、屋内配線や、屋外にある電線をアンテナとして拝借するのです。ただ、100V電源ですから、そのままでは感電してしまいます。これを防ぐために、コンデンサーを中間に入れて、100Vは遮断し、電波だけをいただくわけです。ズルイでしょ(笑)
● 同調回路
同調回路はコイルとコンデンサーで成り立っています。
ここではエナメル線ですが、電線を螺旋状にまいて行くと、コイルの性質が現れます。
コイルの性質を簡単に言えば、コイルは電波を通しにくい性質なのです。通しにくさは周波数の高さに比例して通しにくくなります。この通しにくさの大きさはインダクタンスと言い、その大きさは L と表示されます。また、単位はH(ヘンリー)と言います。コイルの形状は、もうご存知でしょうからここでは紹介しません。
コンデンサーは下の図 Aのように、絶縁体を間にして、金属の板を向かい合わせているものです。
図 A
図 B
図 C
絶縁体とは電気を通さない性質のもので、マイカ(雲母)をはじめとしていくつかの種類があります。また実際には電極は2枚だけでなく、図 Cのように何枚もの電極から出来ています。
コンデンサーはその特性上、乾電池などの直流を流すことはできません。しかし交流(たとえば、家庭の100ボルト電源)は流します。その流れやすさは周波数に比例します。コイルとは逆ですね。
電灯線アンテナに使うコンデンサーは、わずか200pF(ピコファラド、10の12乗分の200)の容量ですから、100V電源の周波数(50または60Hz)には、無限大ともいえる抵抗を持ちますので感電を防げるのです。
また、コンデンサーには不思議な性質があって、電気を蓄えることができます。蓄えられる電気の量はコンデンサーの容量というもので決まりますが、この容量は電極の面積に比例し、電極間の距離に反比例するのです。この容量をキャパシタンスと言い、その大きさはC と表示されます。単位はF(ファラッド)です。
さて、大きさが L のコイルと 大きさが C のコンデンサーを組み合わせると、同調回路となります。この時、受信できる電波の周波数(F)は
の式で表せます。これを同調周波数と言います。
この式でわかります様に、L または C の値を変えると、同調周波数を変えることができます。可変コンデンサー(バリアブル・コンデンサー、略してバリコン)は、このためにあります。その構造は次のとおりです。
軸を回転して、回転子を回して固定子と重なる面積を変えるのです。
固定子と回転子の間隔は一定なので、容量は回転する角度によって変わります。
● 検波回路
<半導体>
ここで使っているゲルマニウム・ダイオードは、半導体材料の一種です。
半導体材料としてはシリコン(元素記号Si)が一般的で、ゲルマニウム(元素記号 Ge)は、特殊な部類に属します。まず最初にシリコンを使った半導体について述べましょう。
シリコンは、砂(特に海岸)の中にいくらでもある、ありふれたものなのです。
最初にこの砂を高熱(1400度以上)で熱し、溶けた砂の中からシリコン以外の不純物を取り除かなくてはなりません。最終的にはシリコンの純度が99.999999999%と9の字が11個もつかなければ使えないのです。
その後意図的にこのシリコンに、ある不純物を混入します。
すると、不純物の種類によって「P型」、あるいは「N型」のシリコンができます。さてこのP型とN型をある方法で接続したものをダイオードと言います。すると、これには面白い性質が生まれます。
図 1
図 2
図 3
ダイオードと電気記号 この接続で電流は流れる
この接続では電流は流れない P型とN型を接続したものに電池をつなぐと、P型の方が+の時だけ、電流が流れるのです。(図 2)
一方P型側が − では電流は流れません。(図 3)多くの金属のように電気を通す性質があるものを導体(どうたい)と言います。
この場合、導体とはいえ、P型とN型を接続した場合は片側しか電気を通さないので 「半導体」と呼ばれます。これが半導体の基本なのです。さて、下の図のように交流をダイオードを通すと下半分(マイナス側)がカットされて、上半分(プラス側)だけがあらわれるのです。これを整流と言います。
1は交流信号で、ダイオードに入力されます。ダイオードのP・N接続は図のとおりです。
2は、1の波形がダイオードを通るとのプラスの部分だけが、出てくる様子です。
3は、2の波形の色のついている部分をある方法(平滑という)で穴埋めする様子です。
その結果、4のように時間に対して一定の電圧を持つ波形(もはや「波形」ではありませんが)、つまり直流となるのです。この整流回路はテレビでも、ラジオでも、およそ電池以外で動作するほとんどの電気機器に使われます。
整流の概念
<検波>
さて、変調波は一種の交流で、ダイオードを通しますが、直流にはしません。
この図のようマイナスの部分をカットするだけです。変調波を整流することを「検波」と言います
→
さて、右の検波後の波形には依然として電波が含まれています。
私は「ラジオの原理」の2.検波回路のところで実際には電波も含まれていますが、問題ありません。このことは後で述べます
と書きました。
確かに問題ないのです。
なぜなら、この電波は、イヤホンへ続く2本のコードがコンデンサーとなって、アースへ流れてしまうからです。<トランジスター>
トランジスターと言う言葉を聞いたことがあると思いますが、これはP型とN型を組み合わせたもので、端子が三つあり、それぞれベース、コレクタ、エミッタと言います。
図にあってベース−エミッタ間に電気を流すと、トランジスタの特性(hfeと言います)に応じて増幅された電気がコレクタ−エミッタ間に流れます。これは増幅器(アンプ)の原理になります。
<ゲルマニウム・ダイオード>
ここで使っているゲルマニウムダイオードの構造は、次の図のとおりです。
ゲルマニウムのチップにタングステンのワイヤーを軽く押し当てています。先ほど紹介したようにPNの接続ではありません。しかし、立派にダイオードの特性を持っています。
と言いますのは、タングステンワイヤーとゲルマニウムが接触すると、その接触点では、ダイオードの特性が現れるからです。接触点の面積は極めて小さいものです。そのことからこのようなダイオードは、点接触(ポイントコンタクト)ダイオードと呼ばれます。
シリコンを材料とするシリコン・ダイオードと違って極めて感度が高く、ゲルマ・ラヂオのようにアンテナに発生した電気のような超微弱電気を検波するには、ゲルマニウムダイオードを使わなくてはならないのです。
<鉱石検波器>
ゲルマニウムダイオードが開発される前では、検波には鉱石が使われました。
鉱石、そうです、石なんですよ。
ですから、ず〜と昔は、ゲルマラジオではなくて、鉱石ラジオって呼ばれたのです。しかし、鉱石なら何でもOKと言う訳にはいきません。
代表的な鉱石は、方鉛鉱、黄鉄鉱でしょう。
もし、これらの鉱石が入手できるのなら、検波器を自作するのも面白いと思います。大きさは5mmもあれば充分。タングステンの代わりにピン止めの針でもOKです。
下の図のように小さな金属容器に溶けたハンダを流し、鉱石の破片を入れます。
針の先を動かして、一番放送がはっきり聞えるところを捜します。
意外なものでは、錆びた釘が使えます。私は子供のころ試したことがありました。これも錆びた釘にピン止めの針の先を当てて少しづつ動かして、放送が一番はっきり聞えるところを捜すのです。
● クリスタル・イヤホン
圧電効果(あつでんこうか)と言うものがあります。
例えば、水晶の板を電極で挟み(上に書いたコンデンサーに似ています)、軽く圧力を加えると、電極には交流が発生します。
これは、電極に時間に対して変化する電気(交流)を加えれば、水晶が変形し、その結果、電極にかかる圧力が変化する(歪む)ことを意味します。
クリスタル・イヤホンはこの原理を応用したものです。
しかし水晶は高価なので、初期のうちはともかく、やがて低価格で同等の特性を持つロッシェル塩というものに置き換わりました。構造は次のとおりです