MCカートリッジ専用イコライザー付プリアンプ
MCカートリッジ専用イコライザー付プリアンプを作りました。回路は次のとおりです。
このアンプは、去年作ったFETプリアンプの後半を真空管回路に置き換えたものです。
しかし使用した能動素子は真空管2本、FET4個、トランジスタ3個、IC1個と真空管より半導体の方が数が多いので、これを真空管アンプと呼ぶべきかどうかはなはだ疑問ではあります(笑)さてイコライザー部です。
私のカートリッジはDENON製DL-103Rで、これ以外使うつもりはないのでMC専用にしました。昇圧はトランス式で、ソフトンのPLT-1です。PLT-1は一次側巻線が2系統あり、直列につなぐか並列につなぐかでカートリッジに合わせて一次側インピーダンスと昇圧比を変えることができます。カートリッジは103Rなので一次側は直列にしてインピーダンスは40Ω、昇圧比は12倍です。また2次側出力は11.6K(15K//51K)で受けていますが、必ずしもこの抵抗値である必要はありません。このトランスは2次側を5.76Kの抵抗で受けることで1次側インピーダンスが40Ωになりますが、2次側抵抗は音質を確認しながら6〜15K位の範囲ならかまわないようです。(同社のイコライザーアンプでは18K//47K=14K になっています。)
次の表はソフトンのホームページからの抜粋です。
形式 MCカートリッジの出力昇圧用トランス 昇圧比 1次 : 1+1
2次 : 24インピーダンス 1次 : 10Ω + 10Ω
2次 : 5760Ω周波数特性 1次並列(10Ω) 18Hz〜105KHz -1db
1次直列(40Ω) 20Hz〜100KHz -1db1次インダクタンス 1次並列 72mH
1次直列 290mH2次インダクタンス 50H (120Hz、50mV) 1次直流抵抗値 1次並列 0.4Ω
1次直列 1.6Ω2次直流抵抗値 250Ω 1次最大印加電圧 100mV 1次直流重畳 不可、交流専用トランス 1次2次間耐圧 100VAC コア 78%パーマロイ(PC材)L型コア 形状 角型ケース入り 引き出し形式 リード線 外形寸法、重量 W:32mm, D:32mm, H:30mm 取り付けネジ含まず。
78g
1次インピーダンス 昇圧比 適合MCカートリッジ 1次並列接続 10Ω 1:24 オルトフォンMC10,MC20,MC30,SPU等 1次直列接続 40Ω 1:12 デノンDL-103、オーディオテクニカAT33等
■FETの選別と動作前回と違って初段は2SK170(BL)です。前回の構成は2SK117 - 2SK30 - 2SK117でしたが、RIAA素子の後が真空管ではFETのようにゲインを稼ぐことができないので、初段は2SK117よりYfsの高い2SK170を使いました。データシートはここです。
2SK170は10本買って一応ペア選別をやってみました。厳密にやるなら10本では少なくて20〜30本は必要でしょう。
ブレッドボード上で左のような回路を組んで負荷抵抗(5.1K)の両端の電位差を測り、電圧が10V程度で誤差が一番小さいのをペアとしました。
電位差が10VですからIDは2mAになります。データシートからIdが2mAの時のYfsを確認すると約20(赤丸)になりますから初段のゲインは20×5.1 = 102です。実際のゲインは90前後と思われます。
その後の2SK30によるソースフォロアとRIAA用の定数、そのシュミレーションも前回と同じです。
■真空管
三段目のゲインを試算してみます。
ゲインを優先するなら12AX7でしょうがμを100、rpを80K、負荷抵抗を200K。出力を50Kのボリュームで受けるとすれば交流負荷抵抗は40Kですからゲインは 100×40/(40+80) = 33.3 です。12AX7のように内部抵抗が高い球には50Kは負荷が重いのでそれほどゲインを確保できるわけではありません。(250Kなら58位のゲインになる)しかし回路インピーダンスや高域特性、SN比等を考慮するなら、どうしてもここは50Kになってしまいます。
そんなワケで真空管は低rp、中μの6BQ7Aを使いました。
この球は1950年ごろアメリカのRCA社で開発されたもので日本では東芝が製造していましたが、その後同社が独自に開発した6R-HH2が大ヒット(?)したためあまり使われなくなったようです。三定数は μ=36、gm=6000、rp=6k 。直流負荷(青い線)は20K、交流負荷(赤い線)は14Kなのでここのゲインは計算上は 36×14/(14+6) = 25.2 になります。左のEp-Ip特性グラフからは40/2 = 20位です。(特性図は必要なところ以外は消してあります)
この特性図から見るとIp=3mA付近の直線性はあまりいいとはいえません。できれば6mA以上は流したいところですが、電圧との関係もあるのでやめました。
前回同様フラットアンプもP-G帰還による単段回路です。
この回路の特性上、帰還抵抗を通して入・出力がつながっていますから本機の電源スイッチが切ってあっても、メインアンプが動作状態なら小さいですが音は出ます。これはちょっと薄気味悪いので、本機のACアウトレット端子はスイッチ・オンで有効になるようにして、メインアンプ単独では電源は入らないようにしました。まあどうでもいいことですがね。
■電源部電源トランスもソフトン製M2-PWTで、Rコアでありながら3500円と非常にコストパフォーマンスが高い製品です。主な仕様は次のとおりです(ソフトンホームページから抜粋)。
1次 0-100V-120V 2次 0-150V 50mA(AC)
0-8V 2A(AC)1次2次間静電シールド 無し 内蔵温度ヒューズ 無し 引き出し方式 リード線引き出し、リード線長40cm ケース 無し 寸法、重量 W:84mm、D:72mm、H:50mm、550g
B電源はブリッジ整流した後、誤差増幅を使った安定化回路で約180V。その後トランジスタとツェナーダイオードで23Vにしました。
今回路を見直すと、整流直後 2SC3425のB-C間の10Kは20K位にして電流を少なくしても良かったかもしれません。トランジスタは部品箱にころがっていた東芝の 2SC3425。データシートはここです。
VCEO が400Vと、現在ではめずらしい高耐圧です。hFEはIcが7〜20mA程度なので50として計算しました。
2SC3425 主要規格
VCBO 500V VCEO 400V Ic 0.8A Pc 10W hFE 20〜100
ヒーターの点火は三端子レギュレータLM317を使った定電圧電源にしました。CR型イコライザーなので少しでもヒーターからの雑音を避けたかったからです。今回使ったのは新日本無線製でフルモールドタイプです。通常のモノより放熱効果は若干悪いですが、放熱器への取り付けは簡単です。
放熱器といえば、今回使ったB電源側のそれは明らかに過剰投資です。もう少し小型でも良かったですね。指で触ってもほとんど熱くなりません。それとLM317もほとんど熱くならないのは意外でした。入・出力電圧差×電流は3.7×0.8 で約3W消費すると見込んだのですが。むしろ点火用のブリッジダイオードの方が熱くなります。
■組立基板は最近頻繁に使っている平ラグで、基本的には前回の物とほとんど同じパターンです。
CR類は特別なものはありませんが、増幅部には一応金属被膜を使いました。各増幅部に供給する電圧(183V、23V)は、330Ωと100Ωの抵抗でわずかですが左右を分離しています。またデカップリング用の電解コンデンサ(330uと47u)を電源基板側に取り付けると音声信号が電源側まで行ってしまいますから、増幅側の基板に配線して最短距離でループとなるようにしてあります。
ケースはリードのKE-2です。
真空管は中のアルミパネルに20Φの穴をあけて取り付けて、配線ケーブルはその下を通しました。ですから上からは見えなくなっています(下の右写真のとおり)。
このパネルと底板との間隔は21mmと少々狭いので、真空管ソケットが底板に当たらないようにパネルはスペーサーを使って5mm程浮かしています。真空管の横に放熱穴をあけましたが、これは不要だったと思います。
アースの取り方は左のとおりです。 ヒーターのアースは他の基板と一緒にしないで2本の真空管につなぎました。その後真空管の9番ピン(真空管内のシールド)とソケット中央ピンとつないでアースポイント(LP入力のピンのそば)に落しています。
B電源と4つの増幅基板は1本のケーブルでつないでアースポイントへ。昇圧トランスのアース側のケーブル2本もそれぞれアースポイントへつなぎました。
入力のRCAジャックは左右一緒にアースに落しています。また一応出力のRCAジャックは入力用とは別にアースしています。
なお各増幅基板内のアースも基板ごとに1本の線でつないで、初段とか二段目などの区別はしていません。B電源基板も同じで、整流後は高圧部分も低圧部分も1本線です。この方式が最良かどうかはわかりませんが、雑音は満足できる結果になりました。
■終りに一番肝心なハムとノイズですが、イコライザーはCR型ですからある程度のノイズはやむを得ません。しかし許容範囲以内です。CD(AUX)モードではノイズも聞き取れず、実に静粛なアンプに仕上がりました。Rコア電源トランスと昇圧トランスのおかげかと思います。
音質につきましては各人各様の考えがありますのでここでは控えますが、私は満足しています。今まで使っていたマランツ7タイプと比較しましたが、私のいい加減な耳では区別がつきません。しかしこちらはマランツ7と違ってイコライザは無帰還ですし、フラットアンプはNFBがかかっているとはいえ1段増幅ですから位相の回転は90度まで。動作の安定性ははるかに上になります。