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801A/VT-62 アンプ

 

 


いつか送信管でアンプを作りたいと思っていましたが、今年(2019年)実現しました。回路はつぎのとおりです(回路はクリックで拡大します)。

801A/VT-62

 

■801A/VT-62

 第一次世界大戦が終了したころ、世界の通信網はイギリスのマルコニー社がほぼ独占していました。それはアメリカも例外ではなく、外国企業に通信網を委ねることに危機感を募らせたアメリカは、政府主導により通信会社を設立したのです。それがRadio Company of America 、略称RCAです。
後にRCAは単に通信の分野だけではなく、真空管の開発やオーディオをはじめとする、エレクトロニクスやレコードの分野にも進出しました。RCAが開発した真空管2A3は非常に有名な真空管で、現在でも多くの愛用者がいます。

801Aは、そのルーツはGE(General Electric)のUV-200といい、RCAが改良してUV-201、UV-202となり、その後10、801Aへとなっていきます。真空管が誕生したころの、ごく初期の規格を色濃く残していて非常に歴史の古い球です。なおVTというのは軍用を表していて、この場合はVT-62といいます。

この球は「送信管」と呼ばれます。文字どおり送信機に使われた球で、詳細はわかりませんが高周波の励振、あるいは電力増幅に使われたと思われます。また、この球はRCAをはじめ、何社かで製造されました。私が購入したのはAmperexで、これはオランダPhilips社系列のアメリカのメーカーです。

■電力増幅部

801A/VT-62をオーディオアンプとして動作させたとき、A1シングルの動作例はつぎのとおりです。

Ef(V) If(A) Ep(V) Eg(V) Ip(mA) Rp(Ω) gm(μ℧) μ RL(Ω) Po(W)
7.5 1.25 425
500
600
-40
-45
-55
18
24
30
1000
1725
1840
5000
4600
4300
5
8
8
10200
8000
9800
1.6
2.3
3.8

 送信管のツネで内部抵抗が高いため、高電圧・低電流・高負荷抵抗の動作になります。出力もそれほどは取り出せず500Vのプレート電圧で2.3W、600Vでやっと3.8Wの出力です。この出力で充分といえばいえるのですが、あまり気が進みません。だって500Vなんて怖いから(笑)

私はそれほどは出力にこだわりませんが、プレート電圧が425Vでは1.6Wです。
これだけあれば普通の広さの部屋では不足はないのですが、ここはもう少し何とかならんか・・と思い、A2動作をさせることにしました。なに、以前からA2級のアンプがつくりたかったのです。
A2動作の詳細はここでは省略しますが、ではA2動作でどれほどの出力が得られるのか。

左の画像は、801A4/VT-62のEp-Ip特性図に10KΩのロードラインを引いたものです。Egを-20V、Ipを25mAにするとEpは340V位になります。
ここを中心に、バイアスが±50V(+30V、-70V)の点に黄色の丸をつけました。それぞれのプレート電圧と電流の座標(EpとIpのmaxとmin)は左図のとおりです。ここから計算される出力は、A2動作では (Epmax-Epmin)×(Ipmax-Ipmin)/8000 = (600-60)×(60-5)/8000 = 3.7W となります。一方、同様にA1動作では (600-235)×(40-5)/8000 = 1.6Wですから2倍以上の出力が期待できる・・・はず。

※A1の動作にはEpは400V、Egは-35V位にする必要があります。

クリックで拡大します

出力はこれでなんとかなりそうですが、次に負荷抵抗が通常のパワーアンプの倍以上、10KΩというやっかいな問題があります。シングル用トランスで、一次側のインピーダンスが10KΩというものは、ありそうでなかなかありません。

春日無線に KA-1220という一次側が12KΩというトランスがありますが、1次側の重畳最大電流が20mAです。これでは電流がまったく足りません。いろいろ探したところ、今は閉店してしまったノグチトランスにPMF-7WSというものを見つけました。一次側は0-5-7KΩで、二次側は0-4-8-16Ω。出力7Wで重畳電流70mA、一次側インダクタンスは 20Hです。

ところで私の使っているスピーカーのインピーダンスは6Ωです。これを0-4Ωにつなげば一次側の見かけのインピーダンスは1.5倍になり、7KΩは10.5KΩになるはずです。
苦肉の策ですが、この場合、インダクタンスや周波数特性は通常使用に比べてどうなるでしょうか。なお、本来PMF-7WSはシルバーハンマーネット色ですが、どうも気に入らないのでTopの画像にあるように黒く塗装してしまいました(^^)

■電圧増幅部

出力段にグリッド電流を流すため前段とは直結となりますが、そのグリッド電流が前段の動作に影響を与えないようにしなければなりません。簡単にいえば、出力管にグリッド電流が流れても、前段の電圧増幅管の動作は影響を受けない。受けたとして無視できる程度にする、ということになります。

そのためには前段に使える球はgmが高いこと、内部抵抗が低く充分なプレート電流を流せることが条件になります。この点、直結動作でおなじみのロフチンホワイトアンプは前段に12AX7等の高μ球がよく使用されますが、一般的に高μ球はgmが低く動作電流も少ないので論外です。そうなると条件に合うのは、5687、6DJ8などになるでしょうか。

今回は真空管による電圧増幅はやめて、FETの2SK117を使うことにしました。2SK117の耐圧は50Vなので、2SC3425を使ってカスコード回路を組み電源電圧185Vで動作させます。真空管とちがってトランジスタはgm(というかhfe)が非常に大きく、真空管に比べてはるかに電流供給能力が高いのです。半導体のカスコード回路ははじめてなのでシュミレーションソフトLTspiceを使って検証してみました。これは実に便利なアプリケーションソフトです。

この正弦波特性では、0.3Vの入力で約55Vの出力ですから180倍位のゲインになります。また、カスコード回路は出力インピーダンスが高いので、2SC4793によるエミッタフォロアをつなげました。

シュミレーション回路 0.3V 1000Hzの正弦波を入力 周波数・位相特性

カスコード回路は、オーディオ回路では、たとえばトランジスタアンプの初段の差動増幅回路に、カレントミラーを組みあわせた回路として多用されています。ミラー効果を無視できるので(※)、本来は高周波回路に使われます。なので今回のように、FETの耐圧を高めるような使い方は「異端」かもしれません。

※FETの入力容量は、つぎの式で表されます。ただし Cgs FETのゲート・ソース間容量、Cdg ドレイン・ゲート間容量、Avその段の利得です。

入力容量 = Cgs + (1+Av)Cdg   

Cdgは(1+Av)倍になるわけで、これがミラー効果です。これはFETに限らず、真空管でもトランジスタでも起こります。
カスコード接続は、下段の2SK117で増幅作用をしているにもかかわらず、交流出力はドレインには現れません。ですからAvは0とみなされるため、入力容量は Cgs + Cdg になります。また上段2SC3425は周波数特性に優れたベース接地回路になるため、総合的な周波数特性は非常に優秀なものになります。

■電源

電源トランスはノグチのPMC-190Mです。二次側は220-200-180-0-180-200-220Vなので、180-0-180を0-180-360Vとしてブリッジ整流し電力増幅段へつなげました(B1)。同時に中点(180V)から電圧増幅段への電圧を供給しています(B2)。このトランスの両波整流時の電流は190mAなので、このような使い方をした場合、電流は約63%、115mA位になると思います(あまり自信なし)。ずいぶん減りますが、元々低電流アンプなのでこれで充分です。

平滑は簡単にはチョークトランスでもいいのですが、せっかく前段に半導体を使ったので、B1もB2もMOSFETを使用したリップルフィルターを組むことにしました。電圧増幅段(B2)へはツェナーダイオードを組みあわせて185Vの安定化電圧を供給しています。これは電流が変化しても一定の電圧を確保するためです。また電源部の出口にB2→B1へとつないだダイオードは、回路の立ち上がり時間の違いで電圧がB1<B2になるのを回避するためです。

このトランスのヒーター用の端子は0-2.5-6.3V 3Aと0-5V 3Aが各々2組あります。前段を半導体ドライブしたおかげで、全部801A/VT62用に使えます。
0-2.5Vと0-5Vを直列につないで0-7.5Vとしてヒーター用の電源としました。ブリッジ整流後10000u2個と1Ωの抵抗でπ型の平滑を作りました。この平滑(リップルフィルター)の効果は充分で、ハムバランサーは不要でした。

■製作

各ブロックごとに平ラグでユニットを作りました。
下図右の画像で電源トランスの近くに左右にあるものがヒーター用。中央の上側が電力増幅段用(B1)で、その下が電圧増幅段用(B2)です。真空管ソケットの横にあるのが電圧増幅段です。なお801A/VT62のバイアス抵抗は発熱を分散するため10KΩ2個と20KΩ1個を並列に接続しました。真空管ソケットの上に見えます。

 完成後、しばらくしてから何気にスイッチON後のバイアス電圧(というよりは電力段のヒーターからアースへ落ちる抵抗の両端の電圧)を測ったら、ちょっと異常なフルマイが見つかりました。スイッチON後、数秒後に170V位まで上昇し、それから下降して110Vに落ち着きます。ここのバイアス抵抗は4KΩですから40mA近い電流です。ちょっとびっくり。最初はB1とB2の電圧のアンバランスのせいかと思い、B2とB1にダイオードをつなぎ初期の電位差を0.6V位にしましたが、効果なし。

ずいぶん悩みましたが、プリアンプとつながずに立ち上げたらこの現象は出ません。パワーアンプのボリュームをいちばん絞っても(最小にしても)同じです。
原因はプリアンプにありました。

プリアンプとパワーアンプの電源スイッチは連動しています。プリアンプのスイッチ立ち上げ時は終段6BQ7にはいきなり180V位の電圧がかかり、一瞬とはいえ出力端子にはわずかですが出力コンデンサ(0.47μ)を介して電圧が出ます。プレート電流が流れるにしたがって発生電圧は下降し、やがて定常状態になります。非常に周波数の低い低周波のようなものです。

もう少し正確にいうと、プリアンプ出力端子には、スイッチ立ち上げ時にはプラス数Vの電圧が発生し、つぎにマイナス数Vになりやがて0Vに落ちつきます。これは私のアンプが異常なのではなく、普通に見られる現象です。
この電圧変化真空管で受ければ、つまり12AX7や12AU7などの傍熱球で受けるパワーアンプなら、動作するにはヒーターの点灯が必要ですからそれなりの時間がかかるのでこんな現象は出てこないわけです。

しかし本機は半導体入力であり、電力段801A/VT-62までは直結で電圧増幅段はかなりのゲインがあります。この「発生電圧」は、そのまま増幅されて801A/VT-62のグリッドに印加されます。これで異常な電流(グリッド電流)が流れ、バイアス抵抗に高電圧を発生させると思われます。

やむを得ず急遽左のようなミューティング回路を作って組み込みました。
最初に12Vリレー(オムロンマイクロリレー)を買ってブレッドボード上で回路を組んで確認したところ、12Vとはいえ実際には7V位で動作します。この後電源トランス(トヨズミ)を買ったわけですが、12Vリレーは選択ミスでした。3Vのリレーとヒーター用の電源(約7.2V)を使えば、電源トランスは不要でした。

回路の原理は簡単で、22Kの抵抗とそれにつながる430μの電解コンデンサの時定数によってトランジスタ2SC3421をONさせます。これによって電源スイッチがOFFの時には接地されている入力端子を開放するわけです。

電解コンデンサの430μは330μと100μの合成です。
この定数で約11秒で動作します。最初は330μだけでしたが、時間が9秒位と短かったため、100μを追加しました。

参考資料 定本トランジスタ回路の設計、情熱の真空管、おんにょの真空管オーディオ


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