四重人格 第8回
赤い彗星 しし座流星群になるのもよし・・・見るだけでなく
「地味い」のバイクは、赤い彗星(すいせい)だ。ロケットカウルにアルミタンク、フレームやシングルシートまで、すべて真っ赤だ。一見、ド派手。内実は繊細でしなやか。そうかと思うと、どっしりと剛健だが、やはり神経質だったりする。交通法規上「おとがめ」を受ける速度領域に達すると、イヤイヤをするように身をよじる、ヨーイング(横揺れ)現象が始まる。もう、10年ほども前に日本にやってきたのだから仕方がないと言えばそれまでか。
V型縦置きツインエンジン。3速、7,000回転(毎分、以下回転数は同じ)で、ベリア(※1)製の速度計の針は90qを指す。
ものの本のデータによれば、排気量400ccに少し欠けるこのエンジンのピークパワー(最大馬力)発生は、8,500回転で43馬力となっている。ところが、ベリア製の回転計では、8,000回転からがレッドゾーンだ。どうなっているのか? だが、まだその領域を試したことはない。低速ギアで引っ張るのはエンジンが悲鳴を上げるし、5速では日本の公道上においてはトライできない。仮に、勇気を持ってトライして、突然バルブやピストンが飛んだらどうなるか? 最悪の場合、エンジンとタイヤはロックされ、瞬時に身体とバイクが引き剥がされ、宙を舞うことができるかも知れない。バイクは、肉体が閉鎖された空間から解放されていることが、最大の魅力だが、ときにはそれが最大の弱点にもなる。閉鎖されたサーキットのように、クッションや衝撃緩和策、救急車が待機しているなんてことは、日本の公道上のどこにもない。
宙を舞うことで、本当に「赤い彗星」になれるか? だとしても、バイクに乗ることができなくなるなぁ。だから、きょうも、「地味い」と赤い彗星は、地上を駆けぬけていくだろう。
もう一台のスクーター。最近、「地味い」が丹精して変身したVespa(ベスパ)ET3については、また今度。
※1
イタリア製バイクに、同社の速度計が比較的よく使われている(と思う)。有名なところでは、DUCATI(ドカティ)やVespaなど。
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