焼き鏝(Pyrography

高橋 清 29C

 

この度は僕が初心者でありながら最近始めたアートの面白さの虜にされたPyrography(パイログラフィー、焼き鏝絵)の紹介をさせて頂きます。大学時代の絵は記憶の為のスケッチ程度ですが(写真1)、それも通り一遍のまま今に至っていて、皆さんにアートの紹介をする奥行きは有りませんが、89歳になってから始めたこの焼き鏝絵は正直のところ独り占めするには残念な程、未だ余りに知られて居ない、面白いアートの一つとして皆さんにご紹介したいと思います。

簡単に自己紹介させて頂きますと、1932年、大間々町生まれ、 1954年に群大工学部、山岳部卒、小学校の頃から絵が好きで、確か3年生の冬に水彩で描いた町の冬景色が、どうしてかいきさつ(経緯)を覚えていませんが、上毛新聞で紹介され、賞を貰いました。そのまま絵の道に進めばよかったのに、其のすぐ後でクラスの絵の時間で描いた絵が余りに酷かったのを、先生から皆の前で、「賞を得たお前は、本当はこれしか描けなかったのか」と厳しく叱咤されて頭に来てしまい、絵を描くのを辞めました。その後、山岳部で写真撮影と一緒に絵を描き始めましたが、腕に限度があったか遊び半分の絵しか描けませんでした。(写真1、渡良瀬川に架かる高津戸橋)

 

 

その後、化学技術の仕事が主な原因と思われる肺気腫が悪化して山歩きもほぼ断念、気分転換と時間つぶしを兼ねて始めた油絵も、ひと月で呼吸器が悪化、医師から油絵の具の影響を指定されて断念、その後水彩、スケッチを経て昨年から水性色鉛筆を使い始めています。友人に時たま見せられる程度の絵しか描けませんが、最近数百の小鳥の巣箱に年代などを記入するために持っていた焼き鏝を使って絵が描けることを知り、鏝より少し絵を描きやすい、先端の柔らか味のある2000円ほどの安い焼き鏝を買ってみました(写真2、焼き鏝と鏝先3個)

 

 

ところが描いて見ると意外に面白く、特に気に入った点は可成りの集中を要する事でした。まず、火傷、火災などの危険、温度への気配りが大切です。絵を描くに当たって樹の材質、鏝先選び等、例えば水彩画で紙を選び、筆を選ぶのと同じ、あるいはそれ以上に気を配る必要があり、特に鏝の当て方の強弱で色が変わり、一度書き込むと修正が困難な事などからしっかり集中する事を必要とします。環境保護に関する政治問題などで可成りのいらだちがあった当時、この集中を要する事は気分転換に大きな効果が有りました。

前記した通り、他のスケッチ、水彩画なども同じく、僕は焼き鏝は素人ですが、意外に容易にこの集中する作業に入り易い事から、お暇を持て余しておられる方、老齢による時間の経過の受け入れに苦労して居られる方などにも何かお役に立てる趣味になるかも知れませんので、ご紹介します。

 

 

「準備」

1.焼き鏝(Pyrography Pen Set)

金属の棒の先が焼き線に応じて替えられる形と、加熱式の金属の細い棒が線の太さや形によって選べる型の2種類があり、画材店、ネット通販などで購入できる。(写真3、鏝先によって変わる線の違い)

 

 

2.画材(焼絵用木版)

原則的に比較的柔らかく、木目が目立たない柔らかい材が良い。カナダで最も多く使われるのがBasswood, 日本名「シナノキ」で、その他、ラワン材、木目の目立たない松材やオーク材が好まれるが、選択は自由で、表面はできるだけ平坦にヤスリ掛けをする。題材の画材をカーボン紙によって木材表面にコピーする事も出来る。(写真4、シナノキの原板にカーボンコピーした熊の家族の写真)

 

 

 

3.作業環境

木材の表面に焼き鏝で焼き目を入れる作業なので、必ず換気の良い、手先の広いワークベンチを使い、加熱による着火などを避けられる環境が必要である。僕は普通、ひどく疲れていない限り絵を描く時もPyrographyの時も立った姿勢を好むので、木工用ベンチの上に小型の台を置き、その上に画材を置いて立った姿勢で描く。こうする事で、腰を痛める事も無いし、足腰を自由に動かせるので自分の部屋でも机の上にを置いて絵を描いている。

 

4.絵を描こう

今回は、我が家のすぐ前の自然地で遭った熊の親子の写真を題材として書いて見たいので、先ず写真を用意、ここで使う焼き鏝はペン先が鉄線のタイプなので、輪郭を描く時は、温度は3/4程に設定して少し低めの温度でスタートし、暫く線を引きながら焼き色の濃さを電圧を調節する。スイッチを入れて1分ほどで温度は安定し、描き始められる。テーブルの周囲は燃えやすいものを避ける事が大事。

 

5.絵描きの手順

5−1.焼き板を選んだら、表面が荒らかったら紙やすりなどを使って焼きが平均に入るように平坦にしてから、鉛筆でごく薄く題材を概略スケッチする。或いは一般の事務用紙に適度の大きさの絵を印刷し、カーボン紙を使ってコピーすればより容易。

5−2.自己流の方法を紹介。まずペン先#2(写真3参照)を使って熊たちの輪郭を描き、全体が描けてから良く形を見直し、必要な部分を少し強めに画面(木面)にペンを押し付けて修正する。線が大きく原画から外れている時は、紙やすりで丁寧に削って消す事も出来るが、出来るだけヤスリ掛けの深さを少なくする。 

5−3.それから#1でディテールを、好みで2号(ペンの滑りが良く、間違いが少ないが、線が太気味で補正困難)或いは3号(線はペン先の当て方で線の太輪をコントロール出来る)で毛並みなどの変化を付ける。(写真−5)

 

 

5−4.一部の輪郭の書入れが終わったら、電圧を上げてペン先の温度を更に熱くして、焼き色の濃淡をつける。(写真−5、写真−6)濃淡は温度だけでなく、ペン先の圧力も大きく影響し、強く押すか、ペン先をゆっくりと動かせば濃く、逆では薄くなる。若し幅広い部分に焼き色を比較的均一に入れたい場合にはペン先#3を使う。#3はわずかなペンの角度で大きく焼きが変わるので、使用前に板切れを使って充分練習してから使用する事を勧める。

 

 

 

5−5.絵全体の輪郭が出来上がったら、改めて書き加える部分を良く見定めてから、書き込みの目的に従ってペン先を選、焼き鏝の温度を調節する事が仕上がりの良さを決めると言っても良いかも知れない。

 

こうして仕上がったのが写真−7の絵。掛った時間は、ペン先の温度調節など、絵を描いて居る以外の調節の時間を入れて約1時間半であった。

 

 

実はこの前に数日前に描き上げた失敗作と、今回の絵とを横に並べて比べたのが写真8である。最初の焼き鏝絵は樹の幹を斜めに切り取った樹材(画面、右)に描いたもので、1)線引きが荒すぎる事、2)焼きの濃淡が少なく、絵が扁平となった、などの欠点が、他の未熟に依って出る欠点に加えて明らかである。

 

 

 

 

お話は以上ですが、完成した絵をご覧になるとお判りの様に、線による生き物の表現が出来る事は大変の驚きと同時に、喜びでもあり、これからだんだん腕を上げて行きたいと考えています。今まで楽しんできた水彩画、特に水性色鉛筆による絵は一時すっかり気を取られてしまいましたが、この焼き鏝絵も違ったタイプの、黒白(或いは茶としろ?)で出来る表現に大いに興味を誘われて居ます。(写真ー9、最近の水彩画、写真10はその焼き絵版の「居眠りするリバーオッター」、淡水に棲むカワウソを写した昔の写真を参考に描きました。その違いをご覧ください。)

 

 

 

 

(以上)

 

なお、Pyrographyや最近のカナダのことなど、ご興味のある方は、高橋 清の下記Mail Address に連絡してください。

Kiyoshi Takahashi  kiyocoq@gmail.com