雄山・薬師岳縦走記

 

 恒例となった山岳部OBの皆さんとの北アルプス山行、今年は8月3〜7日で「室堂−一の越山荘(泊)−雄山(ご来光)−龍王岳−ザラ峠−五色ケ原山荘(泊)−鳶岳−越中沢岳−スゴ乗越小屋(泊)−間山−北薬師岳−薬師岳−太郎平小屋(泊)−折立」のコース。


 参加者はアラ古希5人、荒井リーダーほか永井、関、石川、山田。いずれも40数年前に大きなキスリングを背負って歩いたコース、記憶はほとんど消えていて峠や乗越の急登下降、薬師の岩礫帯をあの荷を背負って良く歩いたもんだと感慨ひとしおだった。
 最後の7日に降られた以外は天気に恵まれ、雄大な山容とハクサンイチゲ、チングルマ、ミヤマキンバイ、シナノキンバイなどなど丁度真っ盛りの花々にずっと歓迎された山旅だった。

雄山のご来光
 初日は美女平から室堂まで高原バス。周辺はガスで展望はない。室堂から石を埋め込んだ舗装道路を一の越まで、立派な山荘で持ち寄った様々な酒と摘みで一年ぶりの歓談。
 翌日3時、満天の星。ヘッドランプを点けて4時5分 小屋発、アルコールの残る身に辛い急登をつめると雄山神社社務所 4時55分、ご来光に何とか間に合った。
 峰本社社務所は大きくシーズン中は神官や巫女が常駐している。深田久弥はここに泊めてもらったと百名山にある。しばしご来光を拝んだ後四方のパノラマを楽しむ、北の剱岳が大きい。南の薬師や黒部五郎、笠、赤牛、東に針の木、その先に槍などが雄大に構えている。

 

ご来光


剱岳、右手前が別山、その左が剱御前

目指す薬師は遥かかなた、左に黒部五郎、その左奥に笠ヶ岳


 明るくなった下りは暗いなかの登りで感じた以上に急傾斜だった。山荘に戻り朝食。7時半、五色ヶ原に向けて出発した。

 

万葉歌の立山

 万葉集 巻17に立山の歌がある。越中国主だった大伴家持の「立山の賦一首併せて短歌」、これに応えて掾(じょう)大伴池主の長歌と短歌が続く(4000〜4005)、何れも夏でも雪を抱く神の支配する山として崇め讃えている。
家持(4001)と池主(4004)の短歌各一首
・立山(たちやま)に 降り置ける雪を 常夏に 見れども飽かず 神からならむ
・立山に 降り置ける雪の 常夏に 消ずてわたるは 神ながらとぞ

 深田久弥は万葉に歌われた立山は剱岳だろうとした。太刀(剱)を立ち連ねたようなさまから「たちやま」と名付けられた。家持の「片貝川の清き瀬に・・・」とか、池主の歌の「巌しかも岩の神さび・・・」とかいう描写は、剱岳以外には考えられない・・・と百名山に書いている。

 2年前、「万葉集を読む会」の皆さんと雨晴海岸から富山湾を挟んで立山連峰を遠望した。下手なスケッチを最後のページに入れた。左手に剱岳が堂々と屹立していて、立山は影が薄い。家持の国主館は雨晴に近い、深田久弥のいうように万葉歌の立山(たちやま)は剱岳かこれを含めた立山連峰が対象なのだろう。

 もう一首、家持の歌。
・立山の 雪し消らしも 延槻の 川の渡り瀬 鐙(あぶみ)漬かすも・・・4024
 延槻(はひつき)川は今の早月川、剱岳が源流だ。歌のなかには片貝川がでてくる、この源流も剱岳。何故か雄山が源流の常願寺川は万葉では影が薄い。



縦走路から雄山を望む、左は龍王岳

 

五色ヶ原

 2日目行程は雄山御来光拝観後、一ノ越からザラ峠を下り五色ヶ原山荘まで。
7時半小屋発、龍王岳右の富山大立山研究室まで緩い登り 8:10/20−鬼岳東面 9:20−五色小屋の管理人にステップを切ってもらったばかりの雪渓を渡り、獅子岳 10:45−休憩後、ザラ峠まで長い急下降、40数年前キスリングで良くこんな急坂を登ったものだ。
ザラ峠着 12時、昼食。12:50発−五色ヶ原山荘着 13:50。

 キャンプ場は山荘から20分ほど下ったところにある。学生時代の幕営地はここ。コンコンと湧き出る水、花の豊富な草原の楽園・・・不思議にここは鮮明な記憶があってもう一度来てみたかったところ。小屋の周辺は記憶と少し違うが、花の豊富な楽園は同じだった。それに何と山荘には風呂があった。5,6人は入れるステンレスの浴槽で汗を流し疲れを癒した。
雲上の楽園で贅沢な風呂に続く楽しみはビールと酒。関君持参の極上ハム、牛佃煮などなど豊富な摘みで夕食までのゆったりした時間を楽しんだ。

 この日の行程は花の競演、龍王までミヤマリンドウ、ホソバツメクサ、シオガマ、ミヤマダイコンソウ、ハクサンイチゲなど、この先からハクサンフウロ、チングルマ、シナノキンバイ、タテヤマリンドウ、クロユリ、オタカラコウなどなど、五色ヶ原の花はコバイケイソウ、コイワカガミ、コザクラなど密度が濃い。

 



コバイケイソウと雪渓、遠くに針ノ木岳;鬼岳手前

乱れ咲くオタカラコウ;ザラ峠手前
  
クロユリとタカネヤハズハハコ

間もなく五色ヶ原山荘

 

スゴ乗越小屋

 3日目行程は薬師へのアプローチで五色ヶ原からスゴ乗越小屋まで。
五色山荘発 5:50−鳶山 6:25/35−越中沢岳 8:35/50−スゴノ頭 10:40/11:25(昼食)−スゴ乗越 12:10−スゴ乗越小屋 13:15
 この日も花の競演、ミヤマコゴメグサやミネズオウなどが仲間入り、スゴ乗越からは趣が変わりシラビソ樹林帯を歩いて小屋に着いた。少し前にポツポツ落ちていた雨も落ち着いた。

 

 シラビソのなかの小振りな小屋のベンチで先ずは乾杯。荒井リーダーのいろいろ気遣いへのお礼にと佐賀の中年ご夫人二人連れからビールの差し入れがあった、いただいた後賞味期限切れと分かり小屋から返金などのハップニングあったりで夕食まで。


 食事の後は外のベンチで酒宴が続く、隣ではおばさん達が山の歌で盛り上がっていた。いつの間にかそのなかに引き込まれ「安曇節」など数曲蛮声をはり上げた。
部屋は一階蚕棚の上、低い天井に何回か頭をぶっつけた。




朝の五色山荘から北の立山、剣方面を望む

鳶山から薬師を望む、まだずいぶん遠い

薬師岳

 4日目は薬師岳を越えて太郎平小屋まで。幸いこの日も好天が続いている。
小屋発5:40−間山7:00−北薬師9:05/15−薬師岳10:30/12:30 昼食−薬師山荘12:10/20−薬師平ケルン13:00−薬師峠(キャンプサイト)13:45/55−太郎平小屋14:20

 佐賀のおばさんお2人と爺ちゃん・小学6年の孫の二組と前後して出発。間山までは花に囲まれた快適な登り、ここから北薬師まで神経を使う岩礫帯の登り。北薬師岳で一服、金作谷カールが綺麗に見渡せる。この先薬師までの稜線で金作谷に滑落した事故があったとリーダーの話、慎重に稜線をたどった。最後の一登りで薬師頂上、祠の薬師如来に参拝。深田久弥が書いた宝剣の破片は見当たらなかった。ガスが出てきた頂上で持ち寄った非常食の昼食、といっても宝塚ホテルのドーナッツ、蜜柑、ソーセージ、ラーメンなどなかなか豪華なメニューだった。



間山から1時間ほどのところから見た北薬師

北薬師から金作谷カール、ガスのなかが薬師頂上


 薬師からは愛知大生が遭難した東南尾根を左に見てミヤマコゴメグサが咲く砂礫帯を下り薬師岳山荘、カ−ルの説明のある銘版を読んでさらに下ると花の多い薬師平。沢筋の歩き難い樹林帯をしばらく下ってキャンプサイトの薬師峠、この下りでこれから薬師を往復するという下山時間が心配になるパーティに何組か出会った。豊かな水のある峠で休憩して太郎平小屋まで一歩き。
 新しく作られた庇のあるテーブルで生ビール、飲み始めて間もなく怪しげだった雲から篠付く雨、薬師頂上で別れた佐賀のおばさん、孫と爺ちゃんがずぶ濡れで到着し拍手。豪雨は途切れず、沢筋の増水が気になる。
後で往復組み皆さんも無事に小屋に着いたことが分かり一安心。


それにしても我々の行程が終了したのを見届けたような豪雨には驚きと感謝。

この日の花々

  
ピンクのタカネヤハズハハコとミネズオウ

薬師平のシナノキンバイとハクサンイチゲ

最終日、太郎平から少し下ったところでいつもキンコウカの群落が出迎えてくれる


 翌朝も雨は止まない、小雨のなか多くの対向登山者をやり過ごしながら折立まで下山。佐賀のおばさん達と迎車のタクシーに相乗、途中有峰の亀谷温泉で汗を流してから富山駅前の中華レストランで旨いビールをたっぷり楽しみながらの反省会が盛り上がった。

 

今回のメンバー

雨晴らし海岸から立山連峰のスケッチ

                                             2009/8  山田記