三段飯 (29W関谷)
 約50年前の話、学校の山小屋にての食事は炊事当番が交替して担当した。その当時部員は20人程いた。翌朝早く山へ出発する時、当日夜の食事・翌日の朝食・昼弁当準備と三食分を一度に炊く事もある、その時は三升が一度に炊ける羽釜を使用し、米を研いで水加減をして、大きな箱型薪ストーブの上に乗せる。火力はかなり強く、ご飯を炊く時必要な蒸し加減する事が出来ず、ストーブより下ろして余熱加減を調節する。
 ご飯を炊く時に、昔良く、「始めチョロチョロ、中パッパ、赤子が泣いても蓋取るな」と言われていた。三升釜でご飯を炊くのはすさまじい。釜と蓋との間からぶつぶつと熱い泡が出て来る。その泡の加減を見計らって、よいしょと羽釜をストーブより下ろす。下ろしても釜と蓋との間でぶつぶつ何か言っている。その間に炊事当番は汁やおかずを作らなければならない。昔の話であるから今のようにレトルト食品で温めるだけと言うわけにはいかない。その当時、おかずで一番多いのはカレーである。野菜、肉等を入れて大きな鍋で作り、匂いは山小屋中充満する。
 ストーブより下ろした釜、ご飯の炊き具合を見るために蓋を取って釜の中を見る。具合良く炊けた時は、大きな杓文字で上下を掻き混ぜるが、しかし、いつもよく炊けるとは限らない、中段は具合良く炊けているが、上段はまだ芯が残っているし、また、下段は焦げてしまっていることもある。俗に言う三段飯が出来上がってしまったのである。
 この出来上がってしまった三段飯の処理は、中段の一番美味しい所はそのまゝ茶碗に盛れば良い。下段の焦げてしまった所は、皿に盛付けてカレーをたっぷり掛けてしまえば目立たない。昼食用弁当には焦げたご飯をおむすびにして、ストーブの上で少し焼いて醤油を付ければ、焦げたご飯の処理は完了である。しかし、上段芯のあるご飯を炊事当番が口に入れて、まず試食して食べられそうであるならば、普通出来上がったご飯と同様に盛付けて食べる。これは芯があってどうもと思われるご飯については、鍋に移して水を加えて、ストーブの上に乗せて炊き直す。水が多過ぎておかゆ状になる場合もあり、結果的にはご飯の芯がなくなれば良いわけで、水分の多少は問題にならない。最後の処理としては野菜や具を入れて雑炊にして食べてしまう事もある。
 昔一般家庭でも、ご飯を炊くのに一番適量として一升程が良いと聞いたことがあった。現在は電気釜で炊くので、ご飯を炊くのにこんな苦労を知っている人がどれ程いるだろうか。

2000年7月27日 記
2002年2月2日 修正