■プロジェクト・M
過去何回か私はネット仲間に自作アンプを披露してきたが今年の5月、国立市で恒例の『CD聴きの会』に参加したとき、マダムさんからアンプ作りを依頼された。その後何回かメールで内容を打合せ、6月初旬には詳細が決まり下旬にはいつものとおり秋葉原へ買出。
秋葉原で買い物をするのはこれで何十回目になるだろう。
学生時代とはすっかり様変わりしているところが多い反面、いつも真空管を買う店のおじさんは、30年以上も前からそこにいる。
私: これ安いねえ おじさん: 安いだけで作りはあまりよくないよ。こっちの方がいい もの静かな言い方だけど、妙に説得力があるので、おじさんの言うとおりにする。
最近体調がよくなく、店を開けるのは週の半分らしい。いつまでもお元気でいてもらいたいものだ。●メインアンプ
基本は去年私用に作った6CA7プッシュプルだが、若干内容を変えてある。
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大きな違いは初段に12AU7の代わりにFET、2SK30を使ったこと。電力増幅段を『交流的には差動増幅回路』、『直流的には上下独立回路』にしたことの二点である。
理由は初段の2SK30は、それが全段差動プッシュプルの標準回路で製作事例が豊富にある。さらに私のアンプは初段の電源を安定化するために、少々熱的に不利な作りにせざるを得なかったから。私のアンプは標準回路では面白くない・・ということで自分流に変更してある。いえ、なに。私の性格がヒネクレているだけです(^.^)
電力増幅段を変えたのは、これならDCバランスを省略できる。つまり無調整で使えるし、仮に片方の6CA7が故障しても他方に影響を与えなくするためである。私のアンプでは初段のバラツキを吸収するために、二段目にこの方式を採用している。
図のように私のアンプは上下のカソードがつながっていて、交流(音声信号)はそのまま上の球⇔下の球を行き来するが、直流は共通の定電流回路を通ってアースに落ちる。
これに対してマダムさんのアンプは交流はコンデンサーを介して上の球⇔下の球となるが、直流は上下それぞれ別々の定電流回路からアースに落ちるようになっている。上下の球(6CA7)のバイアスはプレート電圧と定電流回路で決まるので、マダムさん方式では定電流回路が壊れない限り、上下のバイアスはそれぞれ独立して決定される。(この回路は古くからあります。私の考案ではありません)
また私のアンプはマイナス電源(初段定電流回路とDCバランス調整用)を左右別々に設定したが、今回これは止めた。あまり意味がなく、いたずらに回路を複雑にするだけだと思ったので。ただしクロストークは若干悪くなっただろう。
製作上で今までと違う点は、平ラグを使って各増幅段ごとにユニット化(と言うほど大げさじゃないけれど)したことか。このおかげで配線はけっこうラクだった。7月上旬から作り始めて8月中旬には完成した。
試聴(納品)は9月。国立のCafe Sings で。
CD聴きの会も兼ねていたので各地からネット仲間たちが集ってきた。正直言って大好評で、気をよくする私。
マダムさんは、もっと喜んでいた♪
まったく製作者冥利につきます。しかし私のと今回のとでは微妙に音質が違っている。
中高域のクリアーさでは今回のアンプだろう、しかし低域の重心は私の方にブがあると思うし、何人かの方からも指摘された。まだエージングが終わっていないせいかもしれないし、何より上記のとおり若干回路が違うのも影響しているのかもしれない。# & ♭
●プリアンプ
LPも聴けるようにプリアンプ(フォノイコライザー)も作った。
当初私のイコライザーと同じマランツ7タイプにしようかと思ったが、入出力の微妙な関係で発振することがあるので、人様に渡すものとしては相応しくないと思い、12AX7を使ったごく標準的なCR-NF回路とした。
シャーシーもメインアンプと同じサイズ(350×250×60mm)で、デザインも合わせてトランスも真空管もシャーシーに内蔵した。
真空管は横置きである。
問題は電源トランスだが、シャーシーの高さが60mmと薄いので、市販されているプリアンプ用のトランスではシャーシーの高さが若干足りない。第一、容量はヒーターに6.3V 0.6A。B電源には250V 5mAもあれば充分なので、プリ専用トランスを使うのはコスト的にもったいない。使ったのは東栄変成器の小型トランスである。しかし磁気シールドなどは当然なく、増幅部は盛大な磁気嵐に見舞われることを覚悟しなくてはならない。案の定、このトランスの真上にMCカートリッジの昇圧トランスを近づけるとかなり大きなハム音が発生する。
シャーシー内の配置は、磁力の影響を少しでも回避するため、電源部と増幅部は最大限離すようにした。
といえば聞こえがいいが、下の図のように右側の側板を底辺とする二等辺三角形の頂点にトランスを配置しただけです(笑)。こうすればトランスから見て、入力切替、アンプ基板、入・出力端子が最も遠くなるし距離もそれぞれほぼ等しくなります。
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プリアンプ、特にフォノ・イコライザーの場合、アースをどのように配線するかは重要なテーマになる。
最初はヒーターもB電源もアンプ部も区別しないで入力端子付近でアースしたらかなりのハム音がしたが、あれこれ試行錯誤の結果図のようになった。太い緑色の線は真空管ソケットの中央のピンをつなぐスズメッキ線である。
B電源やヒーター用の基板からはアースに落していない。@ヒーターのアースは真空管ソケットのピンからスズメッキ線に落す
AB電源のアースはアンプ基板まで引っ張る
B入力端子(RCA)は左右の区別はしないで、PhonoもAUXも1本のスズメッキでつないでシャーシーに落す
C出力端子のアースは一応入力のアースとは別にしてシャーシーに落す
D左右のアンプ基板のアースは左右の基板をつないで、片側からのみシャーシーに落す
(上の図でわかるとおり、左右両側落すとループができる)結論としてハム、ノイズはまずまずのレベルにまとめることができた。
●今・・・
二つのアンプはマダムさんの家で使われている。
この先ずっと気に入って、使っていただけることを祈ってます。